「給料前借り特区」は、国家戦略特区に指定されている福岡市が2017年9月4日に東京都で開かれた福岡市国家戦略特別区域会議で提出した、賃金支払いに関する規制緩和を目的とした提案です。
賃金の支払いに関しては、労働基準法の中で労働基準法の中で定められている内容に従う必要があります。
労働基準法の第24条1項によれば賃金は、全額、通貨で労働者に直接支払う必要があります。
また、労働基準法25条では使用者は、労働者が出産や病気、災害などの非常時の場合は、給料日前であっても賃金を支払う必要がありますが、それ以外の場合には支払う必要がありません。
また、給料日前に支払う場合でも、すでに働いた分の賃金に限られます。
また、労働基準法17条は前借金と賃金を相殺してはならないと定めているので、働いていない分の金額を渡してそれを翌月の賃金から差し引くということはできません。このようなことをすると6ヵ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科せられます。
そのため、労働者が賃金の前借りを申し出る場合は、金銭消費貸借の契約書を作成して、お金を貸す形にします。
返済方法は賃金からの控除にするのかその他の方法にするのかを従業員に選ばせる必要があります。
このように、現状では労働者が給料日前に賃金を受け取れる状況は限られたものです。
「給料前借り特区」が実現した場合には給料日前でも賃金を受け取れるようになります。
具体的なしくみは、その日に働いた分の賃金額が従業員のスマホに通知され、従業員はその額の範囲内で購買することができ、従業員が店舗で購入した物の代金は雇い主である会社が店舗の口座に振り込みます。
そして、給料日には、未使用分の賃金だけが労働者に支払われるというものです。
福岡市では、このような規制緩和は労働者と企業双方にメリットがあるとしています。
若者の労働者や外国人労働者の中では受け取れる予定の賃金を給料日前に手にしたいという要望があるということで、「前借り特区」はこのニーズに答えるものとなります。
また、優秀な人材を確保したいという企業側の必要も満たすことになるとしています。
さらに企業側、雇用者双方にとって賃金の振り込みや受け取りの手間が省けるという点をメリットとして挙げています。
「給料前借り特区」は働き方の改革を押し進め、新たな消費行動を推進するものとして期待されています。
また、世界に20億人いると言われる銀行口座を所有できない層が購買手段を得ることになるというメリットもあるとしています。